高市政権下で解雇規制は緩和されうるのか【永井俊哉ニューズレター】
高市内閣が発足したので、それをふまえて、2025年6月5日にアップロードしたビデオ「どうすれば日本人の賃金は上がるのか」の第三章「実現に向けての見通し」への追記を書きます。
この動画で「もしも日本維新の会が連立政権に入り、小泉内閣が誕生するなら、雇用市場の流動化や企業を媒介としない個人への直接的な社会保障といった新自由主義的な改革が一挙に進み、日本人の実質賃金の上昇と失われた30年からの脱却が期待できます」と「現時点で私が考えられる最良のシナリオ」を描き、「今後を注目していきたいと思います」と締めくくりましたが、10月4日の自由民主党総裁選挙では、高市早苗が総裁に選ばれてしまいました。
その後、公明党の連立離脱、玉木国民民主党代表の優柔不断な日和見主義のおかげで、自民党と日本維新の会の連立自体は、閣外協力という形ではありますが、実現しました。この現状を踏まえた上で、「現時点で私が考えられる最良のシナリオ」を新たに考えたいと思います。
高市早苗首相肝煎りの政策の一つに給付付き税額控除があります。日本維新の会との連立政権合意書にも「実現を図る」とあり、さらにまた、立憲民主党や国民民主党など野党も基本的に賛成しているため、実現する可能性は大いにあります。
高市首相は、物価高対策の一つと位置付けているようですが、この制度は、本来、負の所得税と同様、他のセーフティー・ネットの代替策であるべきです。既存の社会保障や社会福祉を廃止したうえで導入するのなら、新たに財源を見出す必要はありませんが、屋上屋を架す制度にするのなら、高市首相が目指す積極財政にはなるでしょうが、インフレを悪化させるので、物価高対策としては逆効果になってしまいます。
もちろん、最初は給付付き税額控除を限定的に導入して、漸次、他の社会保障関連費を削減しながら、規模と範囲を拡大していくという方法もあります。野党の協力が期待できるとはいえ、実際に実現しようとするなら、これが現実的な方法ということになるでしょう。
日本は、これまで雇用をセーフティー・ネットと位置付ける政策を続けてきました。しかし、給付付き税額控除という個人への直接的な社会保障の制度が新しいセーフティー・ネットとして完備されるなら、これまでのように、終身雇用の維持やゾンビ企業の延命/衰退産業の保護といった生産性の向上を阻む政策を続ける必要はなくなります。《個人は守るが、企業は守らない》という積極的労働市場政策に転換できるということです。
高市首相は、解雇規制の緩和に消極的なので、その突破口を開く役割が日本維新の会に期待されます。日本維新の会は、自民党との政策協議で副首都構想の実現を約束させました。日本維新の会の骨子案には、副首都に指定された道府県への規制緩和や税制上の特例措置の適用などが盛り込まれています。
実は、橋下徹時代の2013年に、安倍政権が募集していた国家戦略特区案に対し、解雇規制の緩和など、労働規制を緩和する「チャレンジ特区」案を大阪市と大阪府が共同で提出しようとしました。しかし、高度人材限定とはいえ、解雇特区という構想は、激しい反発を招き、実現には至りませんでした。
野党だった当時と比べると、日本維新の会は自民党に対してより強い発言力を持っています。副首都に指定された後、解雇特区のような社会実験を実行しやすくなります。大阪で実験に成功すれば、全国に拡大しようということになります。高市首相が反対しても、次に小泉進次郎が首相になれば、そうなるでしょう。
私が最初のビデオで主張したとおり、日本経済低迷の根本原因は、終身雇用にあります。大阪の高度人材限定の規制緩和であっても、それが蟻の一穴となって、日本的経営全体の崩壊につながれば、日本経済の未来は明るくなります。私が思い描く最良のシナリオは、たいがい実現しませんが、実現することを願っています。


