消費税は悪なのか
おおよそ消費税ほど日本の大衆から嫌われている税金はありません。しかし、消費税は本当に有害な税金なのでしょうか。グローバル化とオンライン化が進む現代における消費税の役割について考えましょう。
消費税は、日本版付加価値税です。付加価値税は、ヨーロッパで生まれ、日本を含めた世界各国に広がった間接税です。所得税や法人税など、納税者が直接税金を支払う税が直接税と呼ばれたのに対して、消費税は、消費者が支払う税を間接的に企業が支払うがゆえに間接税と呼ばれます。
1989年に消費税が最初に導入された時、税収における直間比率(直接税と間接税の比率)の是正が大義名分として掲げられました。消費税導入直後の1990年には74対26だった直間比率は、2021年には66対34になりました。所得税の割合が41.4%から30.6%へ、法人税が29.3%から14.7%へと減少したのに対して、消費税の割合は7.4%から33.2%へと4倍以上になりました。
しかし、当時政府は、直間比率の是正がなぜ必要なのかをちゃんと説明しませんでした。最近では、財務省も直間比率の是正と言わなくなりました。そもそも、法人税を直接税、消費税を間接税と区別すること自体がおかしくはないでしょうか。法人が自然人でない以上、法人への課税は、株主、経営者、従業員、取引先といった自然人への間接課税になるはずです。同じことは消費税にも当てはまります。実際、消費税は第二法人税と呼ばれることもあります。
これに対して、消費税を負担しているのは消費者だから、法人税とは異なると反論する人もいることでしょう。たしかに、それが消費税の建前ですが、実際はそうではありません。それはトランプ関税の結果を見ればわかります。関税は、輸入する国の消費者が負担すると一般には思われていますが、ゴールドマン・サックスのレポートによると、米国消費者の負担は55%に過ぎず、18%の負担は輸出業者が、22%の負担は米国内の業者が肩代わりしています(残りの5%は脱税と思われる)1。消費税も同じで、単純に上乗せするだけなら、売り上げが落ちるので、企業側も負担しようとするのです。
それゆえ、付加価値税は、所得税導入前に主流であった所得課税の二つの欠陥(赤字企業に課税できない欠陥と海外居住者に課税できない欠陥)を克服します。特に、グローバル化とオンライン化が進む今日においては、後者が重要です。IT後進国の日本は、オンライン・ショッピング、クラウド、動画配信などデジタル関連サービスを海外に依存しているため、巨額のデジタル赤字(2023年に約5.5兆円)を発生させています。しかし、海外のIT企業は、日本に本社がないので、法人税の徴収が困難です。
アマゾンを例に取りましょう。アマゾンは、日本の治安、一般道路、通信インフラなどの外部経済の恩恵を受けて販売収益を得ているのにもかかわらず、日本に法人税を支払っていませんでした。そこで、2009年に、東京国税局は、アマゾンに対して140億円前後の追徴課税を試みましたが、失敗しました。日米の二国間協議の結果、日本が譲歩したからです2。
こうした経緯もあって、2012年に、日本政府の主導で「税源浸食と利益移転プロジェクト」がOECDにおいて始まり、2021年に、それが15%のグローバル・ミニマム税の導入として結実しました3。ところが、2025年に大統領に返り咲いたトランプ大統領は、米国をこのルールの例外にしたため、最低法人税の仕組みは早くも骨抜きとなりつつあります。
トランプ大統領は、グローバル・ミニマム税だけでなく、デジタル課税も認めない姿勢を鮮明にしています。それゆえ、トランプ大統領から高関税の制裁を喰らうことなく、米国のビッグ・テック(巨大IT企業)に課税しようとするなら、付加価値税しかないことになります。
トランプ大統領は、付加価値税も非関税障壁として非難していましたが、米国には、付加価値税がなくても、小売の段階で課される売上税があります。それにもかかわらず、トランプ大統領が不公平と思っていたのは、輸出業者に支払われる還付金を輸出補助金と誤解したからのようです。実際には、還付金は、支払った付加価値税を還付しただけのものなので、輸出補助金ではありません。
結局のところ、トランプ大統領は、各国との関税交渉で、付加価値税の廃止や引き下げを要求することなく、合意に至りました。外国企業から見て付加価値税が関税のように機能することは事実ですが、これは、国内外の企業に平等にかかる税なので、関税ほど露骨に排他的ではありません。
2025年7月に日米で合意に達した協定では、日本が関税を課していない品目まで米国は15%の相互関税を課しており、相互関税が相互的でないと不満に思う日本人も多いことでしょう。しかし、もしも日本が消費税を15%に引き上げるなら、相互的になります。日本から米国に輸出する時は、15%の消費税が免除される代わりに、15%の関税がかかります。米国から日本に輸出する時は、15%の関税がない代わりに、15%の消費税が課されます。他の税金を無視するなら、相互関税は相互的と言えるほど対等になります。
こうすれば、国内企業の米国への移転を防げるとはいえ、税率を15%に引き上げるなら、物価が上昇して、消費者が困窮すると思うかもしれません。しかし、法人税の資本割りと付加価値割を廃止し、社会保険料の負担を減らして、全体として増税にならないようにすれば、企業は、利益を圧迫されないので、税込価格を上げなくてもすみます。
実は、他の先進国と比べて、日本では法人所得課税の比重が高い反面、欧州諸国と比べると消費課税の比重が小さいので、前者を減らして、後者を増やす余地があります。
付加価値税は、居住地が地球上のどこであれ、日本を相手に商売するなら、その商売の規模、すなわち付加価値に応じて外部経済を負担させるグローバル化・オンライン化が進む現代にふさわしい税といえます。
2025年の参議院選挙で躍進した参政党は、「日本人ファースト」を掲げていたのにもかかわらず、消費税の段階的廃止という外国企業を利する公約に掲げていました4。参政党の「日本人ファースト」は、トランプ大統領のキャッチフレーズの模倣なのでしょうが、トランプ大統領を模倣するなら、相互関税を相互的に対等にする方策を考えてほしいところです。
MAX REGO. “Donald Trump tariffs’ impact: 55 percent of costs on US consumers.” 10/13/25.
大村大次郎. “Apple、Amazonの周到すぎる「税逃れ」とは?国税OBが“不平等条約”のウラ側を解説.” ダイヤモンド・オンライン. 2023年7月20日.
岡村善文「日本の手柄:国際課税」OECD日本政府代表部. 2021年11月.
参政党「第27回参議院選挙公約 ― これ以上日本を壊すな!」政策1.


